「国宝・妻沼聖天堂の魅力」シリーズ7

 

魅力満載の聖天山奥殿

 本稿からは聖天山本殿の特徴が凝縮された、奥殿彫刻についてご紹介しましょう。
 聖天山本殿は「建築自体を彫刻化している」とか、「日光東照宮をも凌ぐ」とさえいわれ、「彫刻と彩色の美術・工芸品」とまで言われるほどに、壮麗な奥殿の威容は荘厳性に満ち、思わず魅入られてしまうほど、建物・彫刻・彩色が見事に調和した作品なのです。
 本稿では全国の社寺建築と比べ、特に他に類例がないとさえいわれる、聖天山本殿の特徴をご紹介しましょう。

 

色漆仕上げの軒下・丸彫り彫刻

 奥殿軒廻りの木鼻(柱の上端部をつなぐ横材)や、尾垂木などには、動物や霊獣の丸彫り彫刻(木の固まりを彫った彫刻)がびっしりと取り付けられています。聖天堂が他の建造物と違うのは、この丸彫り彫刻にまで色漆や金箔が使われていることです。
 こうすることで、単に絵具を使った彩色とは異なり、大変艶のある仕上がりとなっています。
 日光をはじめとして他の寺社建築物では、金箔仕上げか、岩絵具による彩色仕上げが通例だということから、専門家や工事関係者からは、丸彫り彫刻の色漆仕上げは全国でも類例がなく、まさに「妻沼の聖天堂だけだ」、といわれる、手の込んだ珍しい仕上げになっているのです。

色漆仕上げの軒下・丸彫り彫刻
色漆仕上げの軒下・丸彫り彫刻

 

板戸を飾る「鷲に猿」の肉彫り彫刻

 奥殿南側の木階の上にある「鷲に猿」の板戸彫刻は、その出来栄えの素晴しさに、左甚五郎作とまで伝えられている「鷲に猿」の肉彫り彫刻です。
 2枚の板戸のうち、右側は谷川に落ちた猿を、鷲が助けている場面を表わすと考えられています。 
 猿は煩悩にまとわりつかれた人間に例えられ、鷲は神様や仏様に例えられ、このように鷲と猿の題材は、江戸時代から絵画や彫刻によく用いられているのです。
 つまり、聖天堂に彫られたものなので、「大聖歓喜天」が民衆を助けるという、 慈悲の心を表現すると共に、得意なことでも慢心すると失敗する、との意味が表されているものと思われます。
(文・写真:阿部修治)

「鷲に猿」の肉彫り彫刻
「鷲に猿」の肉彫り彫刻

 

著者紹介:熊谷市在住。上武郷土史研究会主宰、阿うんの会・講師。
     全国歴史研究会、埼玉県郷土文化会、木曽義仲史学会、他各種会員。
主な著書:『妻沼聖天山』、『甦る「聖天山本殿」と上州彫物師たちの足跡』(以上さきたま出版会)、『寺社の装飾彫刻・関東編上』(日貿出版社)、
     『斎藤氏と聖天堂』(熊谷市立熊谷図書館)、『歴史と文化の町・“めぬま”』(阿うんの会)

 

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